マリオ・バルガス・ジョサ『嘘から出たまこと』と、映画『ヤギの祝宴』

夏になると、暑くて自転車に乗らなくなるせいで、相対的に読書量が増えます。……相変わらず遅読だけど。

嘘から出たまこと
嘘から出たまこと
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マリオ・バルガス ジョサ
現代企画室
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おすすめ度の平均: 5.0
5 小説、フィクションの本質を見事に捉えて提示している
出てるって知らなかった。リョサの新刊はエッセイ。
カルペンティエール春の祭典』(未読)の翻訳者、柳原孝敦のブログで知った。→http://criollisimo-cafecriollo.blogspot.com/2010/02/blog-post_16.html 『ヤギの祝宴』は映画がすごく良かったので、是非翻訳してくださいー!! メモ代わりに当時の日記から転載。

第3回スペイン・ラテンアメリカ映画祭
http://www.hispanicbeatfilmfestival.com/jp06/fiestachivo.php
2006年09月20日
かつて独裁者の右腕と言われた閣僚の娘が、30年ぶりに故郷ドミニカに戻ってきた。マンハッタンで働く弁護士となって。娘は、暗殺未遂?と脳梗塞でもはや動くこともしゃべることもままならない父の前で、かつてのことを語る。
30年前、独裁者を狙う6人の暗殺者が、木立に隠れた車の中で銃を構えていた。なぜ彼らは独裁者を殺そうとするのか、それぞれの理由が語られる。
現在と複数の過去が、じゅんぐりに語られるんだが、もうこの圧倒的なわかりやすさがリョサ。どういう順番に、どのように語れば、観客がついてこれるかを計算している感が満々。それでいて、迫力やスリルがいささかも減じることはない。「あああ、このままではああなっちゃう!」と思わせながら、やっぱりそうなったり、ならなかったり。一人ひとりの気持ちを丁寧になぞっているので、感情移入しまくり。ほぼ同じパターンで違う人物に対して繰り返される悲劇が、きちんと1本の物語を形成して、クライマックスのあの夜につながる(ここのもっていき方もツボ!)。
役者もすっごい熱演ぶり。独裁者もそうだけど、彼にかかわる人たち。それぞれが決意を持って独裁者の前に赴くのに、その部屋を出るときには、憔悴しきって、一回りは小さく見えてしまうのだった。一番印象的だったのはアントニオと独裁者のやりとり。「お前のように勇気のあるものは今はほとんどいない!」ってあれ、皮肉だよなあ。
んで、私、この人の女性に対する視線は、すごく優しいと思うんですよ。『世界終末戦争』でも感じたけど。決して許さないからこそ、この映画で彼女は救われているんだと思う。
客の入りは6割ぐらい。半分ぐらいが南米に何らかの関係のある人っぽい感じだったけど、予想より多かったという印象。
あと、この劇場は画面がかなり上の方なので、いかな最前列スキーといえども、ここで最前列はとらないほうがいいと思った(今日はほぼ中央で見た)。
ああ、神様ありがとう、今朝、この映画の存在に気づかせてくれて。本当に見てよかった。
私はそんなにラテンアメリカ文学を読んでいないのだけど、ぜんぜんマジックリアリズムではないリョサの『世界終末戦争』を読んで、マルケス百年の孤独』がどうしてあんなふう(いわゆるマジックリアリズム)になっているかがわかった気がしたのだ。どちらも「リアリズム」なんだよなあ。本当に、「リアリズム」なんだよ。
この映画は、リョサによる脚色であって、事実でもノンフィクションでもないけれども、かつて、ほんの40年前、ドミニカという国で独裁者が何をした(かもしれない)のか、私はぜんぜん知らないなあと思ったことでした。

岩波文庫リョサが出るとかいうので検索したら、8月に、『緑の家』だって。あんれまー!! 持ってないので(多分)、私は嬉しい。

緑の家 (新潮文庫)
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マリオ バルガス・リョサ
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