ロシア革命アニメーション@京都みなみ会館

ソビエトプロパガンダアニメーションのアンソロジー
http://www.rcsmovie.co.jp/minami/2009/cccp/0731.html

ものすごかった。いろんな意味で。とても言葉では言い表せないので、アニメーションとか、社会主義共産主義とか、独裁とか、ディストピア(笑)とかにちょっとでも興味のある人は是非。
私は、独裁や、秘密主義や、文化的に統制された社会で作られるモノから垣間見える、身を絞られるような葛藤萌えなので、超ツボ。
それぞれ作られた時代の背景を知らないとワケがわからないものだと思うけれども、それを抜きにしても、特に、AプロBプロ共に殿をつとめるタラソフ作品『射撃場』(1979)『前進せよ、今がその時だ』(1977)の過剰に研究し尽くされた、本物よりも本物っぽすぎるアメリカ臭さには、いたたまれない悲しみを感じる。単純に作品としての完成度がめちゃくちゃ高いのもまたすごい。
『射撃場』はyoutubeでも見られるけど、これにインパクトを受けた人なら、劇場で見て損はないと思う。

チョコアニメのアンソロジーなんかを見ていると、結構退屈したり、眠くなることがあるのだけど、今回はこの内容で退屈することは全くなかった。と言って、ものすごく盛り上がったりするものであるはずもないし、重い内容というわけでもない(いや、重いんだけど)。テンポがどれもとてもいいということもあるが、……全てが驚きの連続だったからかもしれない。
アニメとしてはBプロの『株主』(1963)のインパクトが! 絵も動きもテンポも、とにかく上手い! それまでの(戦中戦後?)作品は、いかにもディズニー模倣の動きが目立ったのだが、これは動きに作家性が出ていてカッコイイ。それと、この人ものすごい肉体フェチだと思うのよー。肉体がうねうねうにうにするのが、めちゃくちゃ気持ちよく書かれていて、まあ、ストーリー自体、最後に骨を売る話だし。あと、犬もめちゃカワイイのよねえ。『百万長者』(1967)も犬的にヨイ。
あと音楽も。冷戦時代の作品には主にフリージャズが使われていて、……もちろん批判すべき敵性音楽だからなのだが……、これが本当にカッコイイ!! ものすごくリスペクトされているよね! 
『狼に気をつけろ』も無駄に意味不明なところが薄ら気色悪くて良かったけど、やっぱり全体では『射撃場』のインパクトが頭ひとつ秀でているか。
しかし、全体を通してみても、別にオルグされそう感(なにそれ)はありませんでした……。……むしろ、作家達の「手が届かないもの」への渇望が画面からにじみ、あふれ出ていて、切なくなってしまった。というのは、やはり、1990年の後に(そしてサブプライムショック後に)これを見ているからだろうか。東西を隔てる壁の高さと分厚さが、絶対的なものだった時代が、かつてあったのだ。……あんなに簡単にあっけなく破られるなんて、誰も想像しなかったのに。
さて。このアニメーションの多くで批判されている資本主義の弊害的状況は今まさに私たちの眼前に、現実としてあるわけですが。
嗚呼、「ディストピア」……。
追記:DVDも出るみたい!

内容紹介
ロシア・アヴァンギャルドからプロパガンダ
アニメは洗脳する!
チェブラーシカ」を制作したスタジオが、こんな凄いアニメを作っていた!?
今年劇場公開された16作品に、未公開アニメ20本と解説ドキュメンタリーを加えた完全版4枚組DVD-BOX!
チェブラーシカ」や、宮崎駿に大きな影響を与えた「雪の女王」またはノルシュテインの切り絵アニメをロシア・アニメーションの表の顔だとするならば、こちらは我々にはこれまで窺い知れなかったダークサイド。1917年に始まった共産主義革命の過程で、資本家やファシズムそしてアメリカを徹底的に否定し、革命の成果を誇示するために、早くからアニメーションのイメージ伝達の即効性に着目していたソヴィエト政府は、人民を洗脳する手段として、共産主義プロパガンダを目的としたアニメという特異なジャンルを80年代末の体制崩壊まで一貫して発展させていった。今見ると逆にカテゴライズ不能、ポップで刺激的なこれら短編アニメーションの数々――ジガ・ヴェルトフによるロシア・アヴァンギャルドの影響色濃いソ連最初期のアニメや、ロシア未来派の雄マヤコフスキーに捧げられたコラージュ・ワーク、そして米ソ冷戦真只中に、資本主義批判の建前のもとに敵国アメリカ以上のポップカルチャー趣味を炸裂させてしまった謎のアジテーション・アニメまで――いずれ劣らずクールでキッチュな全36作品! この極めて戦略的なメディアとしてのアニメーションを是非ご堪能あれ!
出演者について
【収録内容】(※印:劇場公開されたタイトル)
Disc1 アメリカ帝国主義1.黒と白(1933年)/2.ツイスター氏※(1963年)/3.よそ者の歌声(1949年)/4.アヴェ・マリア(1972年)/5.百万長者※(1963年)/6.射撃場※(1979年)/7.ウルフ氏(1949年)
計76分+解説映像27分
ソ連最大の仮想敵国アメリカを徹底的に攻撃する一方で、アメリカ・ポップカルチャーへの憧憬がそこかしこににじみ出ている。
Disc2 ファシスト野蛮人1.映画サーカス※(1942年)/2.ファシストの軍靴に祖国を踏ませるな※(1941年)/3.ハゲタカ(1941年)/4.ニュース映画(1941年)/5.愛しのモスクワ(1947年)/6.小さな勇者たちの冒険(1971年)/7.若者のバイオリン(1971年)/8.ヴァシリョク(1973年)/ 9.生かされない教訓※(1971年)/10.狼に気をつけろ※(1970年)/11.ある人形の物語(1984年)/12.私たちには出来る(1970年)
計110分+解説映像27分
★1941年ドイツのソ連侵攻により、怪物や野獣の姿をしたナチスプロパガンダに登場。第二次大戦終了後の冷戦期にもそのイメージは活用され続けた。
Disc3 資本主義者のサメども1.惑星間革命※(1924年)/2.用心を怠るな※(1927年)/3.株主※(1963年)/4.勇敢な小さな船(1966年)/5.予言者と教訓※(1967年)/6.炎の中国(1925年)
計99分+解説映像27分
他人の血を吸って肥え太る資本家こそ諸悪の根源。意外に現在の金融危機を先取りした作品も。20年代ロシア・アヴァンギャルド期の作品も必見。
Disc4 輝かしき未来、共産主義1.前進せよ、今がその時だ※(1977年)/2.ソヴィエトのおもちゃ※(1924年)/3.サモエードの少年(1928年)/4.オルゴール(1933年)/5.レーニンのキノ・プラウダ※(1924年)/6.第12回共産党大会の成果(1925年)/7.勝利に向かって※(1939年)/8.戦争年代記(1939年)9.魔法の石(1965年)/10.戦火の年月を称える歌(1971年)/11.電化を進めよ※(1972年)
計118分+解説映像27分
共産主義革命の理想とその成果を、極端なまでに誇張して描き出した作品群。「前進せよ、今がその時だ」など、もはやこれのどこがプロパガンダなのか全く意図不明。