上田早夕里『魚舟・獣舟』
魚舟・獣舟 (光文社文庫)
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上田 早夕里
光文社
売り上げランキング: 49603
光文社
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おすすめ度の平均:
既発表短編5+書き下ろし中編の文庫短編集
もっと、日の目を見せてあげたい作品。
かなりのレベルのSF短編集
とても良い
これはその対極にある。
基本的に、ホラー風味のSF? SF風味のホラー? とでも言うべき短篇群で、勿論初めて読む作家ということもあり、これから始まるお話がどんなものなのかさっぱり想像がつかないものばかり。だいたいが日本的な固有名詞を伴う、現代実社会とさほど離れていない雰囲気であるにもかかわらず、物語が進むに従って徐々に自然に世界が展開されていき、気が付けば異形のただ中にいるという感覚。それぞれ30ページ程度の短さなのに。
はー、すげー。
ただ、こんだけ上手いんだから、「世界の問い」と「世界の答え(またはヒント、筋道)」を議論で説明しなくてもいいのに、というのがちょっと残念。同じ意味合いで、SF的な「説明責任」が逆にちょっとあだになっているようにも思える。これだけちゃんとした世界を構築できて、表現できるのであれば、もっと謎で、もっと投げっぱなしで、もっと野放図に、もっとやりたい放題にしても、ちゃんと読者に世界とその驚きを伝えられるんじゃないかなあ。そう思えるぐらい上手い。
世界の驚きを、ガジェットではなく、ヒトの情緒の流れで見せてくれるのが見事。魚舟とか獣舟の形ではなく、幼い頃の思い出、捨て去った故郷の記憶から導き出される、淡い恋(のようなもの)と悲しい執着で、「世界」を展開して見せてくれる。だからすんなりと異形の世界に気持ちで入っていける。こんなSF短編は久々だわ(って、SFを、短編を、小説を読むこと自体が久々なのだ!!という突っ込みはあるが!!)。
だから、一番情緒的な「ブルーグラス」に感心した。次が「くさびらの道」かなあ。甲乙つけがたい。好きで言えば「饗応」だったり。
次は……うーん。短編を読みたいのだが、他は長編なんだよねえ。『火星ダークバラード』は「小鳥の墓」の世界だし(あまり興味を引く世界ではなのだけど、別に嫌いなわけではなく)。
火星ダーク・バラード (ハルキ文庫)
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火星ダーク・バラード
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おすすめ度の平均:
おもしろい!!火星じゃないとだめなの?
夜なべしても、後悔しないぞ!
素直に楽しめるSF小説。
様々な要素を取り入れたSF作品