ロードの魅力ってなんだろう?

「ロードの魅力ってなんぞや? スピードけ?」と聞かれて、「うーん、渡り鳥になれるからイイのだよ」と答えたのであった(意訳)。
私はセルマ・ラーゲルレーヴの『ニルスのふしぎな旅』が大好きだ。アニメ版(は、最近になってYahoo!動画でやっと見た)じゃなくて、原作の完訳版。偕成社文庫から出ている全4巻の。
まだ東京人だった去年の正月、帰省中に今世話になっているチームの初詣サイクリングに参加した。猪名川沿いを走っていると、自分が高校の18の頃まで暮らしていたはずの、よく知っていたはずの大阪が全く違ったものに見えた。電車で通ったことしかなかった大阪-池田間の距離を、自分が自転車に乗っていなければ知らなかったであろう快適な道から実感した。

ニルスは、ガチョウの背中で、思わず身がひきしまった。それなら、よく知っているところだし、自分の家からそう遠くはない。それに去年、ガチョウの見張り番にやとわれたところだ。でも、いま、上空から見おろすと、なにもかもようすがちがい、見当もつかない。ああ、そうだった! オーサとマッツが、去年ガチョウ番のとき仲間だったっけ。ふたりはいまもまだいるかしら。もし、自分がふたりの頭の上を高く飛んでいると知ったら、なんていうだろう。
そんなことを考えているうちに、ヨルドバイアは見えなくなった。そしてスヴェーダーラやスカペル湖の上をすぎ、ベリンゲクロステルとヘッケバイアの上に舞いもどっていく。たった一日で、長い年月見たよりも、スコーネ地方をずっと見ることができたのだ。

あ、これって、『ニルスのふしぎな旅』みたいだ!と思ったのは、猪名川シクロクロスに乗った梅田店の林さん(というのは当時は当然知らなかったけど)ともう一人誰かが、突然舗装をはずれて土手に躍り出て、近くで遊んでいた子供たちに「トライアスロンだ!! トライアスロンだ!!」と何度も繰り返し指を指されていたのを見たときだった。

ガンの群れが地上にガチョウを見つけたときが、いちばんおもしろかった。そんなときはゆっくりと飛んで、地上にむかってさけぶのだった。
「さあ、丘へいくんだぜ。いっしょにおいで、いっしょにおいで。」
ところが、ガチョウは答えた。
「まだこの国では冬だよ、ちと早すぎるね。お帰り、お帰り。」
ガンの群れは、ガチョウたちに、もっとよく聞こえるように舞いおりて、いいかえした。
「さあ、おいでよ、飛びかたも、泳ぎかたも教えてやるぜ。」
そういわれると、ガチョウは腹をたてたのか、ひとことも答えない。そこでガンは、もっともっと舞いおりて、いまにもからだが地面にふれようとする瞬間、さもおどろいたようにすばやく舞いあがった。
「おっと、ガチョウじゃなかった。羊だ。羊だ。」
地上のガチョウたちは、かんかんになっておこった。
「撃たれて死んじまえ、一羽のこらず撃たれてしまえ。」
と、どなりたてた。

きれいな隊列を組んで走るロードは、やっぱり渡り鳥に似ている。
さながら、私はそれに憧れて飛び立ってしまったガチョウなわけです……('-')。

「ケブネカイセのアッカ、ケブネカイセのアッカ。」
「なんだね?」
「白のやつがおくれる、白のやつがおくれる。」
「教えておやり、早く飛ぶほうが、らくだと」と団長はさけんだ。そしておなじ速力のまま飛んだ。
ガチョウは教えられたとおり、早く飛ぼうとがんばったが、とうとうつかれきって、畑と牧場のさかいにあるヤナギの切り株を目じるしにおりていった。びりのガンが、「アッカ、アッカ」とさけんだ。
「なんだというの、また」と、団長は、うるさがっておこった。
「白のやつが地べたにさがっていく。さがっていく。」
「教えておやり、高く飛ぶほうが、らくだと」と団長はさけんだ。そしておなじ高さのまま飛んだ。
ガチョウはまた教えられたとおり、高く飛ぼうとがんばったが、息ぎれがして胸がはりさけそうだった。
「アッカ、アッカ」と、いちばんあとのガンがまたさけんだ。
「ちと、静かにねがえないかね」と、団長はまえよりもぶりぶりしていった。
「白のやつ、墜落しそうだ、白のやつ、墜落しそうだ」
「いってやっておくれ、みんなについていけないものは、えんりょなく帰れって」と、団長はさけんだ。

はたして白いガチョウは、冬が始まるまでに、ラップランドまで飛べるのか!?

ニルスは日ごろから馬に乗るのが好きだったが、きょうのように早く、あらっぽく乗りまわしたことはない。それに、空の上はこんなにも胸がせいせいすることや、下からは耕土や樹脂のにおいが、こんなに気持ちよくたちのぼってこようなどとは、夢にも思ったことがない。だいいち、こんなに地上はるか高くを飛んでいこうなどとは、まったく思いもよらなかった。こうしていると、ありとあらゆる心配や悲しみや苦しみからのがれて、飛んでいるような気がするのであった。

……とまあ、結局はそういうことなのだと思う。
(以上、引用部はラーゲルレーヴ『ニルスのふしぎな旅』香川鉄蔵・節訳(偕成社)1巻p.40-45)

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