映画『アイガー北壁』と、ボブ・ラングレー『北壁の死闘』
公式サイト:http://www.hokuheki.com/
アイガー北壁 [DVD]
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右京は見るなよ原題は「Nordwand」=北壁
アイガーとは、こんなに美しいのか。
山岳映画に外れ無し
ところで、アイガー北壁と言えば、ボブ・ラングレーの『北壁の死闘』……しか知らない。
#というか、登山小説自体、ボブ・ラングレーの数作とか、ジョン・クラカワーのドキュメンタリーとか、谷甲州ぐらいしか知らない。
北壁の死闘 (創元ノヴェルズ)
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おすすめ度の平均:
感想まさに “アイガー北壁の死闘”と呼ぶにふさわしい超一級の山岳冒険小説
まさに “アイガー北壁の死闘”と呼ぶにふさわしい超一級の山岳冒険小説
最高の山岳小説
あり得ないから最高!
1991年のNHK-FM「青春アドベンチャー」枠でラジオドラマとして放送されたものを聞き、原作も借りてきて読んで、大変面白かった!という記憶がある。その後、自分でも購入して何度か再読もしている。でももう20年も前なのねー。高校時代だよ。
だからこの映画も見たのだけれども。
映画は実話を元にしているというが、私自身は元となるエピソードを知らず、ただ、おぼろげに記憶する『北壁の死闘』の舞台と重ね合わせながら、素の状態で見たのだった。
当時のナチスは、アイガー北壁をドイツ人が征服することで、威光を示そうとしていた。北壁の麓には豪華なホテルがあり、登山家たちが北壁に挑戦しては敗れる姿を望遠鏡で眺めることが、お金持ちたちにとってのエンターテインメントとして成立していた。豪華列車で各国から来たお金持ちたちは、北壁で寒さと高度に凍え、傷つき、命を落としていく登山家たちの姿を見ながら、暖かい部屋でぬくぬくと豪華な料理をほおばる。
主人公の二人のドイツ人の若者には地位も金もなく、あるのはその鍛え上げた肉体と、あふれんばかりの情熱だけ。「それだけ」ではあっても、二人のそれは、それだけで、神々しいほど「豊か」なのであった。本当に、この映画でびしびし伝わってきたのはここ。一番感動したのは、これ。
アイガー北壁に初登頂する栄光を手に入れたい、あの岩壁を征服したい……その思いだけで、何も持たない若者が北壁に挑む。「交通手段は?」「自転車があるさ!」「たった700kmだけどな!」と、トレーラーを引きずった実用車で麓に赴き、豪華ホテルの脇でテントを張り、麦のスープで空腹を癒す。
圧巻なのが当時の装備。ハーケンは自分たちで鍛冶場で打った手作り。ザイルは麻のロープ。濡れると重そうな上着と頭陀袋のようなザック、手袋はウールのミトン(親指と4本指の!)……(練習中は素手でロッククライミングをして、ずるむけになったりしていた)。『北壁の死闘』でも、「当時の未熟な装備で北壁に挑んだこと自体がすごいことだ」というナレーションがあったなあと思い出す。こんな装備で山に挑むのか、……と驚愕せずにはいられない。
相手は、難攻不落の魔の壁。北壁の高さ、風の強さ、荒れ狂う吹雪、氷の寒さ冷たさ、大きく硬く尖った岩の手触りまで伝わってくるかのような映像。おまえらなんぞ屁でもないと言わんばかりに、徹底的に拒絶する北壁の迫力と言ったら。北壁にとって彼らなぞ、人間にとっての蟻ほどの大きさもないということを、ひしひしと感じさせられる。観客が絶望するような無力感に押しつぶされそうになるなかを、画面の中の登山家たちは、一歩一歩、生きて帰るために、手と歩みを進めていく。
そういう映画でした。本当にいい映画。
最後まで見たら、妙にヒロインも美人に見えるしねえ。低いところで高みの見物を決め込む客たちとの対比も、また良い。
で、その後、本棚から『北壁の死闘』を引っ張り出してきて再読。こちらは、上記の挑戦から数年後、アイガー北壁がハインリッヒ・ハラーによって登頂された後の物語。何度目かの再読なのだが、結局途中で止められず、深夜3時半までかかって一気読み!! 北壁の映像、当時の登坂の様子がイメージできるので、これまでで一番面白く読めた。本当に面白かった。
ところで、後半のアイガー北壁を舞台にした作戦行動の印象が強すぎて、前半の訓練場面の方の印象が薄かったのだけれども……。
やー、ラジオドラマで聞いたときは、初回と、4回目ぐらい? 「チーズとピクルスですよ」「ふざけないで!!」以降の1話を聞き逃していたんです……orz。はー。
あそこに、シュペングラーもいたのか……。
あー、『北壁の死闘』のエーリッヒ・シュペングラーは超人で、ハリウッド映画っぽい派手なビジュアルが展開する感じですが、映画の登山家はあくまでも等身大の人間だったのが良かったなあ……と思ったことです(どっちもいいけど)。
というわけで、もう一度大画面で見たいなあ……と思うのでした。お勧め!