コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』
しかもイーガン訳者の山岸真訳で。
舞台は、ソビエトかどこか、旧東欧諸国を思わせる、恐ろしく寒い土地、エリートと労働者階級が分断された社会。少年ドローヴはエリートの父に伴われて、海辺のパラークシのコテージへやってきた。そこで去年恋をした少女ブラウンアイズと再会し、互いに惹かれあい、幼い愛を育む。しかし、彼等の国は戦時下にあった。首都もやがて陥落し、要人たちも続々パラークシに疎開してくる。そこに庶民とエリートとの軋轢が生まれ、ドローヴとブラウンアイズは、哀れにも引き裂かれるのであった。
というのが表向きの物語。
でも、実際は、地球とは全く違う惑星の、全く異なる生態系の中の、人間とは全く異なる生命体の、全く異なる文化を持つ世界の物語を、「まるで地球の1875年のヨーロッパ」っぽく書いているのだ。
著者前書きより
こういう仮定を作り上げたのは、この物語が語るに足るだけのものであり、そしてまたこれ以外の語りかたではこの物語が恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、さらにそれ以外のものでもある――これこそわたしが望んだ姿なのだ――ということは不可能だったからだ。
というわけで、切ないひと夏の避暑地の恋物語と思って読んでいたら、最後の「一文」でSF的超弩級のセンス・オブ・ワンダーを食らわされます。まさに、「この書き方」でしか、「SF」でしか描けなかった大きな大きな物語。
SF好きの方は、是非是非是非是非!!
これが売れたら、サンリオ文庫では出なかった続編が訳出されるかもしれないとのこと。……正直、この話にどういう続編が可能なのか、さっぱり想像がつかないのだけど。
しかし、今自分の本棚を探したら、サンリオ版が見当たらなかった……。多分、カバー付きで、100円ショップの文庫本袋に、サンリオセットにしておいてあったはずなのに?!
復刊されて良かった。山岸訳だし。
サンリオ
売り上げランキング: 704383